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輸入盤CDのシールは何のため?

 洋画ばかり見ていた影響で、子供の頃から音楽も洋楽ばかり聴いていた。レンタル店に行くことは稀で、祖父が僕のために撮り貯めた「金曜ロードショー」などのビデオテープを見るのが常だった。
 その影響かは分からないが、長らく「CDを購入する」と言う当たり前の意識がなく「どうすれば好きな時に映画音楽を聴けるだろう?」と考えたあげく、映画を流しながら近くでカセットに録音したりしていた。現在ならアマゾンやレコードショップでサウンドトラックを注文して終わりだが、そうして手に入れた音源を、テープが伸びるほど何度も聴いていた。

 初めてCDを買って貰ったのは、中学生の頃だったと思う。家ではその頃、生活用品の宅配サービスを利用していて、僕といえばカタログを眺めてはお菓子ばかりせがんで、その都度母さんに断られていた。
 カタログにはエンターテイメントコーナーのような一角があり、流行りの映画や音楽がいつも申しわけ程度に並んでいた。そこにある時、Movie Hits という映画主題歌のコンピレーションアルバムが載っていた。僕は大して収録曲も見ずに、今までにないくらい激しく買って欲しいとせがんだ。どうしてそんなに惹きつけられたのかは分からないけれど、かっこいい映画音楽が大量に入っているに違いないと、勝手に思い込んでしまったからだと思う。
 「曲数の割に安いし……」という事でようやく母さんも折れ、なんとか購入までこぎ着いた。届いてからはCDが擦り切れて薄くなってしまうんじゃないか、というほど繰り返し聴いた。
 今考えると、ロック嗜好の土台はその時に形成されたような気がする。それまではシャウトやディストーションギターなど、激しい音に恐怖を抱いていたくらいなのに、いやはや良かったんだか悪かったんだか。

 その頃からロック音楽にはまり、紆余曲折を経て友人の影響でメタルに流れ着いてしまい、いつからか漁るようにCDを買うようになった。
 当時はまだネット通販にも馴染みがなく、駅前のレコードショップも、メタルなんてあってないようなものだった。そのため月に1度くらいの割合で、渋谷の大型レコードショップに出かけていた。最初はHR/HMの独立したコーナーがあるだけで何だか嬉しくて、大して知りもしないのにジャケ買いして、帰ってから後悔するようなことも少なくはなかった。
 ネットのアマゾンやHMVで輸入盤を買うようになったのもその頃で、1度そうなるとわざわざ電車を乗り継いでCDを買いに行く、なんてことはあっさり無くなった。国内版に比べると千円以上も安いのだから、送料を含めても痛くはない。
 僕は来る日も来る日も、マイスペースで芋づる式にバンドを視聴しながら、輸入盤の値段と希少性を天秤にかけて、ブックマークしたり購入したり、そんな日々を以後7年(!)近く送った。
 その時買ったCDは今はほとんど手放してしまい、思い出ごと二束三文で売ったのかと思うと時折後悔しそうにもなるけれど、それはまた別の機会に書こうと思う。

 ところで輸入盤を買った際に、ただ1つだけ憂鬱で仕方ない点がある。早く聴きたくてたまらない気持ちをへし折るが如く、ケースの淵に貼り付いているセキュリティーシールである。
 爪で剥がそうものならノリが残り、うまく捲れても引っ張っている途中で裂けて、更に剥がす手間が増えるという、押しても引いても駄目な実に困ったやつなのだ。
 一応すみの方に「PULL」と書かれた、いかにもそこから剥がして欲しそうな小さなでっぱりがあるのだが、その通りに従ったところで綺麗に剥がせたためしがない。ミステリーで言う所のミスディレクションというやつだが、温厚だと言われる自分でもいらいらしてしまうくらいだから、気が短い人だったら怒りに任せてCDを叩き割ってしまうんじゃないかと、心配になってくる。
 セキュリティーシールと言われているくらいだから、防犯の面で役立っているのかもしれないが、せめてもう少し粘着力を弱くするとか、厚みを持たせて裂けにくくするとか、品質の改善を行ってもらいたいものだ。輸入盤を買い始めた頃からそんな感じだから、すでにかなり長いことあのシールが使われているのだろう。誰かが署名運動でも始めるまでは、僕はシール剥がし液を片手に持ちつ持たれつやっていこうと思う。

 その昔、駄菓子屋さんには「かたぬき」というお菓子があったそうだ。僕はやったこともなければ実物を見たことすらないのだが、セキュリティーシールをつまみながら、どうにかノリが残らないように、裂けてしまわないようにと慎重に剥がしていくのは、まさに現代の「かたぬき」ではないか。
 そう考えると、あれほど憎かった輸入盤シールが急に恋しくなってくる。近頃 bandcamp ばかり利用しているせいで、すっかりCDを買う量が減ってしまったが、次に輸入盤が届いたときには、きっと新たな気持ちでシール剥がしを行えるに違いない。今まで何百回とやってきて、ただの一度も綺麗に剥がせたためしがないのだから、歯ごたえは十分。待っていろ輸入盤!

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