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音漏れしてる人

 ヘッドホンをつけて出かけることが度々あるが、帰宅して玄関のドアを開けた途端に、やけに音が大きく聴こえ、こんなに大音量で聴いていたのかと驚くことがある。環境によって音の感じ方も全く変わってしまうという話だ。
 ぼくは大きい音があまり好きではなく(ライブとかは別だけど)基本的に音楽も映画も、控えめな音量で鑑賞することがおおい。時折メタルをスピーカーから大音量で流したくなる時もあるけれど、周囲の迷惑にはなりたくないから、気持ちちょっとツマミをひねるくらいで抑えている。
 だからそもそも、音漏れするくらい大音量で聴くなんてちょっと想像できない。ヘッドホン難聴なんて言葉もあるくらいだし、もっと耳を大事にしてあげないと将来音楽どころではなくなってしまうよ。なんて余計な心配をしたくなってしまう。
 それでも音漏れ族が自覚なしに垂れ流している音楽が、自分も知っているものだったりすると「おっ」という気持ちになる。


 何年も前のこと、ブックオフで洋楽コーナーを漁っていると、どこからかメタルらしき音楽がずんずんと響いてきた。隣を見ると女学生らしきヘッドホンを装着した人が、頭を軽く動かしながらハードロックコーナーを吟味していた。
 そうそう真似出来ないような大胆さだが、人目を気にせず音楽に入り込んでいる姿はなんだか羨ましかった。そこで気になったぼくは思わず声をかけ、ロック話しで意気投合し、即日交際関係へと発展し、順調に愛を育みめでたく結婚、という展開にはならなかったけれど、今でも不思議とロングヘアーの後ろ姿を覚えている。
 先日電車で隣に座っていた男子学生もかなりの音漏れだった。ギターケースを背負い、白いシャツをなびかせながら、流れゆく外の景色を眺めていたが、音楽はそんなクールさとは無縁の至ってポップなものだった。それも1曲リピートという極めてミニマルな再生のため、何度も同じ楽曲を聞かされる羽目になり、電車を降りてからもしばらくの間はメロディが消えなかった。
 やっぱり音漏れは迷惑に違いないから、ぼくも気を付けようとあらためて思った次第である。


 高校時代にロック好きの友人がいた。彼にメタル世界へ引きずり込まれたせいで、ぼくの人生は大きく軌道をそれてしまったのだが、それはまた別のお話しで、彼もまた非常な大音量を好んでいた。
 時折自転車で通学を共にしていたが、音漏れしつつも平然と会話をこなし、まったく耳がいいんだか悪いんだかよく分からない、ミステリアスな人物だった。
 周囲から若干BL疑惑を持たれる程度に彼とは仲が良かったらしいが、今ではすっかり音信不通で、何をやっているのか音楽の聴きすぎで死んでいるのかすら分からない。数年前に電話した時には、学校を中退してカラオケ屋でバイトを始めたけれどまもなく閉店して、紆余曲折を経て今は車を売っていると話していた。彼が真面目にお勤めしている姿なんてとても想像できないが、時間が停止したまま生きている人なんていないのだ。
 こうして昔の友人を思い出すと決まって懐かしさに打たれるが、自分から連絡を取ったことはほとんどなく、今回も結局そうなるだろう。


 時折ウーハーを地響きのように鳴らす車を見かけるが、家で好きに聴くのが難しいとなると、車くらいしか自由に楽しめる場もないのかもしれない。と、真似しようとは思わないが、ちょっと同情の気持ちが芽生えるようになった。
 でもそういう人たちって、なぜだかみんな似たようなジャンルを聴いている。ヒップホップとかテクノ系のポップスとか。せっかく重低音に特化したシステムなのだから、ぜひともメタルを流してみたいものである。
 いつかそんな車を見かけたら、ヒッチハイクして隣町まで乗せてもらいたいけれど、やっぱり怖いし怒られたら嫌だから、憧れにとどめておく。

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