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自販機と缶ジュース

 日本は国土あたりの自販機の数が世界最多だと聞いたことがある。なるほど確かに、田舎だろうが都会だろうが、どこに行っても自販機を目にしないなんてことはない。むしろあまりにありふれているせいで、田んぼに囲まれたあぜ道のど真ん中にあったとしても、特に気にもとめず通り過ぎてしまうに違いない。どんな背景にも違和感なく溶け込んでしまう能力は、自動なんとか機の中でもかなり上位な気がする。

 自宅の近くにも自販機がある。歩いて1分もかからないから「ちょっと喉が渇いたな」なんて時は、蛇口をひねるより先に、気がついたらドアを開けている。
 夜中の自販機は街灯のようなものだと思えば、かすかな作動音もそれほど悪いものじゃない。自販機の隣には大抵ゴミ箱があるから、近くの適当なところに腰を下ろして、スマートフォンを片手にグイグイと喉を鳴らすのだ。夜中の閑静な住宅街のなか、自販機のブーンという音が段々と心地よくなってきて、飲み終わってからもつい長居してしまう。そんなときは大抵、家に帰ってからかゆみ止めを塗りたくることになるのだけれど。

 小学生の頃はほとんどお金を持っていなかった。たまに臨時収入があってもせいぜい数百円。大抵は駄菓子屋さんでちまちまと使って終わっていたから、なかなか健全な小学生だったと思う。
 100円以上のお菓子が駄菓子とは言えないように、当時110円の缶ジュースを自分のお金で買うのは相当の勇気が必要だった。というかほとんど買った記憶がない。喉が渇いても、友達の家に着くまで我慢したり、自転車を必死にこぎながら家路を飛ばしたり、いつもそんな感じで水道水や牛乳を貪っていた。

  家族で出かけた際などに買ってもらう缶ジュースは、ポカリスエット、力水、デカビタ、リアルゴールドのいずれかが多かった。「電解質とかビタミンとか、なんだか良さそうなものが色々入っているし、なにより美味しいんだから体にいいに違いない!」と本気で思っていた。

 なかでもリアルゴールドの評価は、ぼくのなかで群を抜いていて、なぜかというと成分表示に"ローヤルゼリー"という、さらによく分からなくて凄そうな成分名が載っていたからだ。たぶん健康食品の通販番組かなにかで、同成分の誇大広告かなにかを真に受けていたのだろう。お金を持たされて自販機の前に立つと、真っ先にリアルゴールドの瓶を探すようになり、プラシーボかは分からないが、飲むと実際に元気になっていた。
 当時350mlという平均的な缶ジュースの内容量は、背の順で常に先頭だったぼくにとってはかなり多かった。半分も飲み終わる頃にはお腹がたぷたぷと波打ってきて、さっきまでの渇きも忘れてすっかり飲むのがおっくうになってくる。リアルゴールドは小さめのビンで量も少なかったから、その辺りも都合が良かったのかもしれない。

  今ではすっかり缶ジュースを飲まなくなった。砂糖のとり過ぎはよくないと、自制しているからだ。自販機で買うのはもっぱら水かお茶。学生の頃は自販機で水を買うなんて、そもそも水が商品として売っていること自体、理解の範疇を超えていた。
  ミネラルウォーターの効果や価格が適正なのか、なんてことは今でも全く分からないけれど、砂糖を飲むよりは体にいいだろうと、保険をかけるような気持ちで飲んでいる。

 しかしそれでも、リアルゴールドの金色の缶が並んでいると、つい視線がいってしまう。缶になってからも何度か飲んだことがあるが、瓶とは味が違うように感じるのは気のせいだろうか。紙パックにそそがれて出てくる型の自販機でも、リアルゴールドを時折見かけるが、やっぱりビンが一番おいしかった気がするだよなぁ。

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